What is Jazz ?



 ○ ジャズについて  ○ トランペットについて  ○ ジャズ練習法について
 ○ ジャズの群像  ○ 全国ジャズ行脚  ○ 米子ジャズ散策







トランペットについて @ 

                                      

1   トランペット〜ビンセント・バック180ML 37ベルSP
 大学のジャズ研では当初ヤマハのカレッジ・モデルを使っていたのだが、そのうち少しグレードアップを目指すようになって購入したのが、バック180ML37SP。バックの中ではスタンダードなモデルで、多分最も多く出回っているモデルではないか。一般にクラシック用とのイメージがあるけど、あらゆるジャンルのトランペッターがバックのトランペットを使っている。私のは80年代初頭に製造された一本。最近のバックは凋落の一途をたどり、工場も中国に移すだの移さないだの、あまりいい話は聞かない。人によってはエルクハート製はバックに非ずというぐらいだから、最近の製品に至ってはトランペットに非ずとなるのかも知れない。逆に評価を上げているのがヤマハだ。実際にヤマハのシグネイチュアーモデルを使っているプロも多い。

 ここにきてようやく下火になってきたビンデージ・トランペット・ブーム。というか、モノが無いのが現状だろう。米国のオークションなどを観ると、たまにオールドマーチンのコミッティーモデルなどがあり「さすが本場」と思わず唸ってしまうが、日本ではすっかり姿を消してしまった。ニューヨーク・バックしかり、マウント・バーノン・バックしかり。もちろん現代のバックとは別物で、NYバックなどは吹奏感からしてまったく異なる。基本的にライトウエイトだし、素材そのものの違いも感じる。個人的にはNYバックのようにエッジが立たないテイストが好きだ。新品でこういうテイストの楽器を作ってくれるメーカーはないだろうか。

 と、何だかんだ言って、最近はバックと付かず離れずの状態が続いている。はっきり言って私にはヘヴィーな楽器だが、抜けてるし、アンサンブルによくマッチするし、ここ一番の登板が多い。特にデッドなスペースで大人数で演る場合など、とりあえずこいつの太い音に頼ってしまう。

 現在のバックのラインナップにはライトウエイトもあり、一度吹いてみたいのだけど、未だに実現していない。軽い中にバックの音が生きているのなら案外いいかも知れないな。私にとって180MLは「いい楽器」なんだけど、あらゆる意味で重過ぎる。チェット・ベイカーが最晩年にバックのラッカーを使っているが、音はブッシャーとまったく同じ(笑)天才は何吹いても関係ないみたいだ。 

 そういえば昔吹いた「シャガール」という欧州のメーカーの楽器が、同じシルバープレート、二本支柱ながら、ちょっとオールドっぽいテイストがあって素敵だった。買っておけばよかったと少し後悔している。


2   トランペット〜セルマー・コーラス80J
 セルマーといえばサックス。それほどサックスが有名なメーカーなのだが、実はトランペットも製造している。それも、かなり以前から。ルイ・アームストロング、ハリー・エディソンが使っていたし、チェット・ベイカーが60年代に使っていたフリューゲルホーンもセルマー。たまに中古楽器店でオールド・セルマーを見かけるが、つくりの良さは抜群だ。

 このコーラス80Jは比較的最近のモデルで、最新ラインナップの「コンセプトTT」の一代前のモデル。出雲のレストラン「味巣亭」でエディー・ヘンダーソンがライブをした際にこの楽器を吹いていたので、思わず翌日に注文した。それほど衝撃的なプレイだった。何しろ音が無茶苦茶ダーク、なおかつ太い。CDで聴いてファンになったが、実物はもっと凄かった。フリューゲルホーンを思わせるような暖かなサウンド。一糸乱れぬフィンガリングといい、人間がトランペットをこれほど簡単に操れるのかと驚いた。もしかしてこの楽器を使えば、エディ・ヘンみたいに吹けるのかも知れない・・・

 そんな訳ないが、トランペッターとは基本的に単純な人種である。巧く吹くためなら家の権利書すら手離しかねない人種なのだ。で、東京の楽器店から二本ほどコーラス80Jを取り寄せて、明らかに抜けの良かったものを購入した。

 一見ノー・ラッカーのようにも見えるが、サテンラッカー仕上げになっている。一本支柱でスクエアクルーク、ボトムキャップもヘヴィータイプのものを使っていて、全体的に重量感のある仕上がりだ。楽器本体の存在感も抜群だが(よくモネと間違えられた)音も凄くダーク。エディ・ヘンとはいかないまでも、この楽器にしてあの音ありと納得した。ダークの大御所、マーチン並みのダークさ、それでいて芯のしっかりしたぼやけないサウンドは、かなり特殊。ジャズ・コンボを意識して作られただけあって、かなり偏った方向性を持っている。人によっては好みの分かれるところだと思う。個人的にはかなり好きな部類。しかしながらLボア。Lボア故にウォームで太い音なのだが、その分多少キツい感じもある。MLボアでこの雰囲気は出せないものだろうか。或いは細管でオールド・マーチンのようには仕上がらないものか、と思う。

 かれこれ3年ぐらい使ったんだけど、諸事情によりあまり使わなくなってしまった。エディ・ヘン本人は今でもコンセプトTTを使用し、独自のダークサウンドで異彩を放っている。楽器選びのポイントはまず自分がどんな音を出したいのか、どんなプレイをしたいのかが肝心だ。


3  マウスピースを買ってみた
 ヤフオクでトランペットを売却し、マウスピースを一気に4本買ってみた。いずれもヤマハで、中川モデル「TR-14B4EE」「TR-15B4EE」「16B4NJ」フリューゲル用の「15F4N」。現在「16B4NJ」を使っていて、今回はスロート径を0.03mm拡張したものを買った。

 トランペットのマウスピースは大きく分けて「カップ」「スロート」「バックボア」で成り立っている。カップは歌口でスロートは歌口から入った息が最初に通る「通り口」、バックボアはスロートを通った息が抜けていくトンネル部分と考えればいいだろう。同じマウスピースでスロート部分を0.03mm拡張するとどうなるか。結論から言うと、吹奏感がまったく違ってくる。「よりオープンな吹奏感が得られる」というのが率直な感想。トーンも暖かくファットになるが、その分高音域がキツくなる感じもある。コンボでやる場合は今回購入した物の方が合ってるかなと思うのだが、持久力が保てるかどうかが問題。練習などで様子を見なければならない。ちなみにカップ径はバック換算で1ハーフC。

 「TR-14B4EE」「TR-15B4EE」は、いずれも6月1日に新発売となったもので、ややボアサイズの大きい(クラシック向けボア)にジャズ用の細いスロートを組み合わせたもの。「えぐり」付きのカップはバック換算で3C前後。独特の吹き心地である。最近ジャズ用のバックボアに慣れていたせいか、開きの早いクラシックボアだと少々違和感があった。吹いていると次第になれてくるが、バックボアの開きが早い分、音もファットで広がりがある感じがする。スロート径の広さによる変化とはまたちょっとフィーリングが違っていて、バックの雰囲気により近いと言えばいいかも知れない。音にニュアンスをつけやすそう。個人的にはバックボアは音に、スロートは吹奏感に大きく関わっている感じがする。個人的にはナチュラルな吹奏感という点では、開きの早いバックボアにはそれ相応の大きめのスロート径がふさわしいような気がする。

 現在30本近いマウスピースが部屋にごろごろしている。私のマウスピース遍歴は覚えているだけでもバック7C→ジャルディネリ10M→同6M→同7M→バック6C→ストーク7C→ジャルディネリ7C→ヤマハ18B4NJ→同16B4NJなど、未だに完璧なものにはめぐり合っていない。とりあえず客観的な部分から選択すると、まずは吹いている状態の上唇と下唇までの間隔を測ってみることから始まる。私の場合16.3−6mmぐらい。バックでいうと3番―2番あたりが妥当ということになる。ということはヤマハの16番では若干大きい筈で、15番あたりが適当との結論に至るが、若干小さい印象を受ける。まぁしばらく色々と試してみようと思っている。少しでも良い演奏をするためには、少々の出費をケチっても仕方がない。都会なら試奏できるのになと思うとちょっとせつないけど・・・


4   マウスピース顛末記
 2007年7月現在、いろいろ購入した中では一番小さいヤマハ「TR-14B4EE」に落ち着いている。バック換算3Cだから決して小さい訳ではないが、しばらく16番を使っていたので、結構小さく感じる。当分はこれで行ってみようかと考えている。ついでにフリューゲルのマウスピースも15番に落とした。しかし今メインで使っている楽器はマウスピースも含めて全てヤマハになっちまった。バランスの良さは結構凄いかも。

 職業柄(?)初対面の人に合うと真っ先に口元に目がいってしまう。大抵の人はトランペット吹奏にさほど適しているとは言えないか、可もなく不可もなくレベルだが、たまに実に適している唇と歯の形をした人がいるので、羨ましくなってしまう。思わず「トランペット吹きなさいよ」と言いたくなるが、余計なお世話と怒られそうなので言わない。

 一言で言えば、唇の薄い人でなおかつ歯が小さめの人。このタイプの人は、音を出すのにさほど苦労はしないだろう。まさにトランペットの適正があると言える。私は唇が厚く、前歯が大きいタイプなので、マウスピースの選択からして限定されてしまう。単純に、カップの大きさは、上下唇の外側の皮膚がカップ内に収まるかどうかで決まるからだ。この点は下手にあれこれ考えないで機械的に決定すべき点である。

 もっとも、吹奏中のカップの中の唇の状態は見ることができない訳だから、鏡とフィーリングに頼らざるを得ない。お陰でここ半年で7本のマウスピースを買う羽目になった。試奏できないため、良さそうなサイズのマウスピースを取り寄せて、まとめて買わざるを得ない。ただ最近はネット・オークションなるものもあるから、合わないものは即座に売れば、大体65%ぐらいは元が取れる。残りの35%は授業料と諦めるしかない。現在、30本ぐらいマウスピースがごろごろしているから、楽器一本分の授業料は支払った計算になる。かなわんなぁ。


5   ジャストフィットを求めると
 最近は不調のあまり、半分ノイローゼ気味(笑)で、忙しい日など、車の運転をしながらマウスピースを吹く始末だった。

 カップの直径17.00mmから17.8mmまでの大きさの3本で試行錯誤していた。17.8mmというとバック1C以上のサイズで市販モデルでは最も大きいうちの1本。中間のサイズが17.5mmなので、違いは僅か0コンマ数ミリなのだが、唇に当てた感じはまるで異なる。色々と試した上、私の理想のサイズはおそらく17.2-3mmあたりだと思うようになった。ただし規格外のため、17.00mmで妥協する。これに唇を収めてやると案外いい感じで、久々に少し光明が見えてきたような気がする。

 道具の選択で少しでも良く吹けるのであれば結構なことだ。その手間暇を惜しんでいても何も始まらない訳だし・・


6   「ケノン」のフリューゲルホーン
 フリューゲルホーンはその姿がトランペットと似ていることから、よく「トランペットの兄弟」と言われたりするが、実は異なる家系に属し、原型はサックスの開発者として知られるアドルフ・サックスの開発した金管楽器群「サクソルン」とされる。

 フリューゲルホーンと言えばアート・ファーマーを思い出すジャズファンが多いのではないか。トランペットより丸みを帯びた柔らかい、紗のかかったような音。あれはフリューゲル独特の味わいで、トランペットでは表現できない雰囲気だ。
 アート・ファーマーの使用していたのはフランスのメーカー「ケノン」のフリューゲル。ケノンはトランペットも製作していて、ジャズ関係ではあまり使用者はいなかったようだが、ケニー・ドーハムが使っていた。

 アート・ファーマーの使用で流行り始めたケノンは、ジャズ・フリューゲルの代名詞と言えるほど、多くのジャズマンに愛されてきた。80年代に火災で工場が焼失したものの、現在でもケノン・ブランドのフリューゲルは製造されている。
 火災で焼失する以前に製造されていたものを一般的に「オールド・ケノン」と言い、作り自体は結構アバウトながら、その独特なトーンは他のメーカーにはない魅力。もこっとした中低音域と、ソフトな高音域が何ともたまらない。

 トム・ハレルがオールド・ケノンを使っている。いやこれは凄くいい。ちなみに「なんぼ」のしみずりえもケノン(写真)だが、吹いてみるとやはり、現代のフリューゲルにはない魅力というのが、確かにある。う〜ん、欲しい。ちょうど東京の某楽器店にオールド・ケノンの出物があって、一ヶ月ほど考えた挙句に、購入を決めた。まだ手元にはないので、半分ほど購入した段階だが。


7  BSC(ブラス・サウンド・クリエーション)とZORROトランペット
 先週末から昨日まで大阪でしたが、大阪の寒いことったら。鳥取以上の寒さで、タクシーの運転手によると「数年に一度の寒さ」だと。

 そんな中、私が密かに注目していた2本のトランペットを心斎橋M木楽器で試奏してきました。BSC(ブラス・サウンド・クリエーション)のボトムラインのモデル「ミレニアム」(16万円7000円)ZORRO(ゾロ)のシルバー(6万6000円)。いずれも廉価モデルです。

 トランペットはサックスと比べて比較的安価と言われる。それはそうだろう。複雑な構造のサックスと単純な構造のトランペットが同じ価格だったらおかしい。とはいえ、最近は海外ブランドのトランペットはじりじりと価格を上げ、定番のバック37シルバーも定価30万円を突破。セルマーに至っては新モデルから一気に10万円以上の値上げとなった。そこで注目されるのが、廉価モデル、20万円以内のモデルである。

 中でも注目していたのがミレニアムとゾロ(いずれもシルバープレート)。後者に至ってはラウンド・クルークとスクエア・クルーク付、ケース付で売価6万円台と、超破格値。東京の楽器店「シアズ」さんが特注し、台湾でビルトアップしたもの。近年ジャズ、クラシック問わずプロの間でも結構売れているらしい。前者はドイツ在住でマイスターの資格を持っている日本人の方が興されたメーカー。W・マルサリスがトップモデルの503を使用していることでも有名。一昨年あたり、職人のストライキでバックが日本に入ってこなかった時期に、バックの代わりとして使われるようになってブレイクした。

 ゾロは吹いた瞬間に「吹きやすい」と感じる。よく鳴る。ソフトに吹くとウエットでダークな味も出せて、これで6万なら買いだ。個人的には若干ライトな吹奏感ではあるけど、音が細くなることもなく、大きいマウスピースでも反応が良い。ライトウエイトの楽器のようにマウスピースを選ばないと思う。

 ミレニアムはさすがにゾロよりも重量があって、吹奏感もしっかりしている。ゾロのように「むちゃくちゃ開放的」といった感じではないが、その分中・低音域の暖かいサウンドづくりが楽そう。ピストンのボタンがでかく、わりとショートストロークなので非常に押さえやすかったのが印象的。ベルに貼り付けられたメーカーのエンブレムが音の安定感とつながりに寄与してそうな気配だ。バックのように太い音でもないし、ヤマハのようにストレートでもない、独特なフィーリング。体格が標準―やせ型の方はバックよりもこっちの方が鳴ると思う。オールラウンドに使えそうで、これでボサノバか何かソフトに吹くと良さそうな気がした。

 ゾロとミレニアムは価格差が倍以上。キャラクターも異なるけど、「吹きやすさ」という点ではゾロは異色の吹きやすさだろう。キャラクターが欲しい分、私自身はミレニアムを選ぶが、あくまでも好みで。いずれも日本人の肉体的条件でも吹きやすく、鳴りもいいと感じた。現在私はラッカーの楽器を使っているので、たまにシルバーもいいなと思っていて今回試奏してみたら、どっちも良かったので驚いている。


8   トランペットの奏法研究〜マウスピース編
 なんて、大仰なタイトルを付けてはみたものの、そんな偉そうなことを言える立場ではないし、言うつもりもない。ただ、最近はここ一年のトランペット奏法の研究の甲斐あって、ダブルHigh-Cに到達するなど一定の成果もあるので、メモ程度に記しておこうかと思う。

 トランペットを始める際に案外と困るのが入り口の部分かも知れない。マウスピースの選択。「バック7Cが標準」などと一般論を真に受けたら最後、当分は地獄から這い上がれないだろう。そもそも「標準」なんてあり得ない。この世には「個人の肉体的条件にフィットするマウスピース」しか存在しない。1番が「でかい」、10番が「小さい」はあくまでも「標準サイズ」と比較した場合の表現で、人によっては1番が標準であってもおかしくない。

 一見曖昧なようだが、マウスピースのカップの適正な直径は、唯一客観的、かつ正確に計測できる部分なので、これはもうきちんと唇に定規でも当てて測ってみるべきだ。図示できないのが残念だが、上の歯の先端と上唇の先端部分、同様に下の歯と下唇の先端部分が同じぐらいの位置になるようにしてトランペットを吹く口を作ってみる。多くの人は唇をやや巻き気味にせざるを得ないと思う。

 そう、自分では気付かないが、実は「出っ歯で顎が引っ込んでいる」のだ。私自身これまで「出っ歯」と指摘されたことは皆無なのに、実は出っ歯だった(口を閉じた時、上の歯が下の歯を完全に覆ってしまう)。しかも上の前歯2本が比較的大きい(日本人によくある歯の形です)ため、上唇と下唇を多少巻き込まないと、うまく振動しない。で、そのままバズィングできる位置まで唇を閉じた際の、上唇の赤い部分と皮膚の部分の境界線と、下唇の赤い部分と皮膚の部分の境界線までの距離。これが自分にとってのマウスピースのカップの「最低直径」になる。
 
 仮にそれ以下のサイズのマウスピースを使っている場合、残念ながらそれは誤った奏法です。私は20年間トランペットを吹いていますが、何と15年間は誤った奏法のまま吹いていました。あー勿体無い。と言うか、どの本にもそななこと書いてないし、教えてもくれない。

 ちなみに私の最低直径はバックで言えば1ハーフC。標準と言われる7Cよりも遥かにでかいサイズです。さて、その最低直径が決まれば、後はそれよりも大きいサイズのマウスピースを試してみて、自分なりにサイズを微調整していけば良いのではないでしょうか。カップの深さについては「唇が薄い」或いは「厚いけど歯が小さい」人以外は、浅いカップだとおそらく使えないでしょう。ある程度やや浅い〜深い、えぐり付きではないと厳しいのではないでしょうか。その時点でバックは全滅です。

 「サイズ」「深さ」が決まったらスロート径とバックボアの調整です。これもまた微妙な部分で、スロートサイズが0.1mm違うと吹奏感はまったく異なってきます。バックボアもテーパーの開き具合で「しんどい」か「楽」かが大いに違います。

 とまぁ、簡単ではありますが、とにかくマウスピース選びで、その後が大きく左右されることは間違いありません。マウスピースが奏法を決めてしまうと言っても過言ではない。そのためには自分の身体的条件を客観的に把握しなければならないでしょう。楽器選びは次の段階です。私のように闇雲に40本近いマウスピースを買うより、考察した後に買えば、多くても5、6本程度で済みます。


9   トランペットの奏法研究〜楽器篇
 さて、そんなこんなでマウスピースが決まったら次は楽器の選択をしましょう。以前も書いた通り、最近は低価格の楽器でもかなりクオリティが高く、ピッチ面でも随分と良好なものが多いと思います。基本的には予算と相談しつつ、自分の好みの楽器を購入するのがベターだとは思いますが、その際に、楽器の重量には気を付けた方がいいのではないでしょうか。

 重量別で大きく分けると、一般的にトランペットは軽い順に「ライトウエイト」「標準」「ヘヴィータイプ」のものに分類されます。「ライト〜」はヤマハ・ボビーシュー・モデル、エリック・ミヤシロ・モデル、昔のベンジ、カリキオなど、「ヘヴィータイプ」がモネやインダヴィネンなど。では「標準」は何かと言えば、これが難しい。一般的にはバック、ゼノあたりの重量が標準と考えられていると思いますが、私自身は「やや重」と捉えています。

 それはともかく、「ライト」「ヘヴィ」の場合ではマウスピースのバランスもそれなりに必要となってくるのでやっかい。私の考えでは「ライト」の場合、やや小さめの、浅いカップのマウスピースが最もフィットすると思います。軽いが故に、オーバーブロウすると、息の量が楽器の許容範囲をいとも簡単に超えてしまいます。

 トランペット全般に言えることですが、楽器を「鳴らす」というよりも、「身体に共鳴させた音をトランペットを通して増幅する」というイメージが大切なのですが、「ライト」の場合、結構シビアに鳴らし方が求められるので、大きく深いマウスピースとは相性が悪いと考えています。

 80年代のフレディ・ハバードはカリキオのフレディ・モデルを使っていましたが、映像などで観ると、かなり息を吹き込む奏法のフレディ。楽器が許容範囲を超えているとの印象を受けます。70年代のコーン・コンストレーションを使っていた時は楽器がきちんと息を受け止めていたと思います。結論を言えば、「ライト」は、「トランペット吹奏に向いた唇・歯型の保持者で、なおかつ理想的には太目の体型のプレーヤー向け」の楽器ではないでしょうか。

 一方「ヘヴィー」は、インダヴィネンの「スタジオ」や「シルバーアート」など、普通のマウスピースで吹きこなすのは無理。「モネ」もマウスピースがヘヴィー・タイプであるのも、それなりのバランスがあるからに他なりません。バックのボトム・キャップをヘヴィー・タイプのものに変えるチューンも一時流行しましたが、楽器のバランスが崩れ、鳴りが悪くなったのを記憶しています。

 結局のところ、「ヘヴィー・タイプ」の楽器もマウスピースのマッチングが難しく、アトリエでシグネイチャー・モデルをこつこつと開発できる環境にある方以外は、避けておいた方が無難でしょう。

 マウスピース篇でも書いた通り、自分の身体的特徴を客観的に踏まえた上での楽器選びが大切です。要はどれだけ効率的に楽器を鳴らすか。西洋人と日本人では身体の特徴が違うことを認識しなければいけません。


10   ヤマハ・ユーザーです
 現在、トランペットもフリューゲルホーンもヤマハ製。極右派、というか何というか。

 思うに他の工業製品の多くがそうであるように、技術的な面ではヤマハのトランペットも世界トップクラスの水準である。そもそも個体差が少ないというのは優れた技術の証左であって、「製品にばらつきがある」こと自体、基本的にあってはならないことだ。もしもばらつきがあるのであれば、出来の悪い個体は分価格を差し引くのが筋であろう。

 これだけの技術がありながらプロのトップシェアを確保できない理由は簡単だ。「演奏家が楽器を作ってないから」である。演奏と楽器制作がまったく分業である点が、設計図では見えない部分をフォローしきれない結果につながっている。

 一方、海外ではメーカー設立者が名演奏家であるケースが多い。バック然り、シルキー然り、ベンジ然り。そのあたり、ヤマハの幹部はどう考えているんだろうか。

 それならば、自分に合った楽器をヤマハに作ってもらうのがベストではないか。

 現在使っているのは、ゼノをベースにした中川モデルのラッカー。ベルとリードパイプをつなぐ延べ座の位置がミソで、以前にも書いた「ZORRO」と同様、かなりバルブケースに近い位置に設置されている。鳴らしやすいタイプの楽器と言える。中川氏は「ヤマハが日本人に合った楽器、マウスピースの開発をしてくれることを望む。日本人のトランペット吹奏が進歩しないのはヤマハの責任だ」とよく仰られているが、本当にそうだと思う。ヤマハももう少し本気になってくれたら、結果的にシェアがかなり拡大すると思うんだけど。


inserted by FC2 system